研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第17号

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『秋津温泉』論

朱, 依拉

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/67985
JaLCDOI : 10.14943/rjgsl.17.l185

Abstract

1962年に発表された『秋津温泉』は,女優の岡田茉莉子が自身の映画出演百本記念作品としてみずから企画し,吉田喜重に監督を依頼した作品である。この映画は,後ほど公私ともに生涯のパートナーとなる二人による最初の共同作業として注目され,メロドラマの傑作としては高く評価されている。しかし一方では,監督による他の映画作品と比べて,本作には吉田喜重映画を決定的に特徴づける要素が少なく,全体としてこの前衛映像作家の作家性が欠けていると指摘する声も少なくない。その結果,『秋津温泉』は吉田喜重フィルモグラフィーの中でも他の作品とやや離れた場所に位置づけされるように見える。 本稿は,監督による他の作品との継承関係を念頭に置きつつ,これまで希薄とされる本作における監督の作家性を全面的に考察することによって,いわゆる「反映画」的姿勢を貫いてきたと思われる監督のフィルモグラフィーにおける位置付けを再検討する。その考察は,主にシナリオと映像を対象に行われる。具体的に言うと,まずは松竹時代の監督の問題意識が本作において如何に反映されているかを検証する。続いて,本作を現代映画社設立初期の作品群において監督が行なったいわば「反メロドラマ」的実験の予告と看做し,その中で先行して行われた吉田喜重と言う映像作家による最初の試みを考察する。そして最後に,後ほど完成されることとなる監督による「反映画」的作品で最も重要とされるモチーフの一つとして,「鏡」を取り上げて本作における鏡の表象について考察を行う。

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