研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第17号

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小川未明と日本少国民文化協会 : 日中・「大東亜」戦争下の歩み

増井, 真琴

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/67986
JaLCDOI : 10.14943/rjgsl.17.r15

Abstract

日本少国民文化協会(以下、少文協)は、日米開戦直後の昭和一六年一二月二三日(皇太子の誕生日)に発足した、児童文化分野の国策協力団体である。そして児童文学作家の小川未明は、この団体の設立・運営に深い関わりを持っていた。 しかるに、未明と少文協との接点をつまびらかにした先行研究は、現状存在しない。というのも、昭和期の未明の行状自体、これまであまり注目されてこなかったからである。なかんずく、満州事変以降、一五年戦争下のそれは、研究の空白地帯とさえ言ってよいだろう。 そこで本稿は、研究の更地に一石を投じるべく、次の三節からなるアプローチを採用し、両者の関係の究明を試みた。 まず、一節「「児童読物改善ニ関スル指示要綱」から日本少国民文化協会設立まで」では、少文協発足の起点である「児童読物改善ニ関スル指示要綱」(昭和一三年一〇月)から、「児童文化新体制懇談会」(昭和一五年九月)を経て、少文協設立(昭和一六年一二年)へ至るまでの未明の行状を、一次資料を探査して、徹底的に洗った。 次に、二節「日本少国民文化協会での発言・行動」では、少文協設立後、団体の機関誌類(「少国民文化」「少国民文学」「日本少国民文化協会報」『少国民文化論』)へ発表された、未明の評論・随想類をすべて分析するとともに、協会内部での彼の行動を追った。 最後に、三節「童話「頸輪」─アジアを統べる母」では、未明が「少国民文化」創刊号へ著した童話「頸輪」(昭和一七年六月)を分析した。童話作中の小犬と母犬には、欧米に屈従を強いられるアジアと、その解放者たる日本の姿─すなわち、「大東亜共栄圏」のイデオロギー─が存分に仮託されているというのが、筆者の見立てである。 本稿によって、従来黙殺されてきた、未明の国策協力者としての相貌が、幾分なりとも明らかになったものと結論付けたい。

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