研究論集 = Research Journal of the Graduate School of Humanities and Human Sciences;第18号

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日本語の自己卑下表出に関する一考察

隋, 暁静

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/72436
JaLCDOI : 10.14943/rjgsl.18.l63

Abstract

日常会話で,われわれはよく何らかについての評価を行う。それらの評価には,肯定的な評価もあれば,否定的な評価もある。そして,相手や第三者,あるモノや出来事に対する評価も,自分に対する評価もある。話し手が自分に対して評価する際には,話し手があえて自分,あるいは自分側に属するモノ/コト/ヒトに関して,否定的に言語化する例も少なくない。このように,話し手が自分自身に対して否定的評価を行うことを本稿では「自己卑下表出」と呼ぶことにする。本稿はその使用文脈と話し手の発話意図から考察した結果を示したものである。 まず,本稿の考察対象となる「自己卑下」を,「話し手が,会話の相手に対して自己,あるいは自分側に属するヒト/コト/モノに対して特定の基準にあわない,逸脱したものとして低く価値づけること,あるいは自己の否定的な側面となりがちな情報や事実に言及し,呈示すること」と定義しておく。そして,「自己卑下」とよく似た概念で,「自分の能力・価値などを低く評価すること。控えめに振る舞うこと」である「謙遜」との相違点を明らかにするために,用例を見ながら,両者の関係と位置づけを明確にした。 続いて,自己卑下の種類を見てから,自己卑下表出の使用における文脈や話し手の使用動機などについて考察し,話し手が他者からよく思われたいと期待する自己奉仕的な動機もあれば,対人関係をより良くしよう,会話をスムーズに進めようといった対人関係を良好にするという動機もあった。さらに,相手の行動や言葉遣いなどに対する不満や文句を表し,相手に対する否定的評価を引き出す用例も考察した。自分自身のことを低く評価する自己卑下表出は,使用される場面や文脈によって,いくつかの機能が見られることから,話し手の言語運用上の一種のストラテジーにもなっているのではないかと思われる。

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