北方森林保全技術 = Technical report for boreal forest conservation of the Hokkaido University Forests;第21号

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積雪期におけるエゾシカ等の痕跡調査について(Ⅰ) : エゾシカが樹木に及ぼす影響

浪花, 愛子;池上, 佳志;山ノ内, 誠;守田, 英明;水野, 久男;杉山, 弘;金子, 潔;森永, 育男;斉藤, 満;三浦, 美明;菅原, 諭;鈴木, 健一

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/73157

Abstract

中川研究林では、1992年から琴平地区・パンケ地区・音威子府地区の3箇所で、エゾシカのライトセンサスを春期と秋期に実施している。1998年頃から、ライトセンサスでのエゾシカの目撃数が増加してきた。エゾシカは、積雪期になると、ササ類を主食としているが、積雪の多い地域では、ササが積雪下にあるため、樹木の枝や葉、樹皮を食べる傾向がある。最大積雪深が、平地では約140~220cm、山間部では約200cmあるいはそれ以上となる中川研究林は、積雪の多い地域に該当する。したがって中川研究林における積雪期のエゾシカは、樹皮等を食べる傾向があると思われる。近年、琴平地区とパンケ地区では、樹木におけるエゾシカの食痕が目立つようになった。特にハルニレ、オヒョウに食痕が多く見られる。また、パンケ地区には、長期観察林が数箇所あり、積雪期にこれらの長期観察林における胸高直径等の再測を実施しているが、このときに、シカ道やねぐら等の痕跡が目撃されている。これらのことから、琴平地区とパンケ地区では、エゾシカが積雪期もこれらの地域の森林空間を利用し、越冬していると考えられる。また、両地区とも、エゾシカの個体数が増加傾向にあり、その影響が出はじめていると考えられる。さらに、エゾシカ以外の動物も、積雪期に中川研究林内で足跡等が目撃されている。このことから、積雪期も様々な動物が中川研究林の森林空間を利用していると考えられる。今後、森林のあり方を考えていくには、エゾシカ等、森林に生息する動物の個体数・森林空間の利用状況を把握し、これらの動物に関する情報を収集する必要がある。琴平地区は「一般国道40号音威子府バイパス」計画の対象地である。これに伴い様々な自然環境調査が実施されている。琴平地区における動物に関する調査では、野鼠、哺乳類の生息状況・利用場所等が実施されている。森林に生息するすべての動物を対象に、個体数・森林空間の利用状況等を把握するには、様々な分野の知識と、多くの労力・費用等を要する。これは非常に困難である。そこで、ある程度、対象とするものを絞る必要がある。エゾシカの目撃数が増加し、食痕も目立つようになった琴平地区とパンケ地区では、エゾシカに注目し、2002年3月、積雪期におけるエゾシカ等の痕跡調査を開始した。この調査では、積雪期に食痕と足跡を調査した。食痕からエゾシカの冬期間における食性を、足跡から森林空間の利用箇所を知ることができる。また、春・秋に実施しているライトセンサスの結果から、エゾシカの個体数を知ることができる。これらの調査結果から、エゾシカの個体数と、エゾシカが樹木等へ与える影響が判明すると期待できる。

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