臨床心理発達相談室紀要 = Bulletin of Counselling Room for Developmental and Clinical Needs;第3号

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「精神障害を生き抜くとはいかなることか」を多様性にひらく : 別報 もう一つの「夜明け前」

松田, 康子

Permalink : http://hdl.handle.net/2115/78518
JaLCDOI : 10.14943/RSHSK.3.49
KEYWORDS : 多様性;精神障害;生き抜く;質的研究;Diversity;Mental health issues, trauma, extreme states;Survival;Qualitative research

Abstract

 本報告は、第一に精神科臨床に携わってきたケアの担い手が、「精神障害を抱えて生き抜くとはいかなることか」をどのように経験したか、その生きられた経験の意味の探索を行うことと、第二に「多様性を認め」合うケアの視点、つまりケアの担い手として応答せずにはいられなかった物語の発見を目的においた研究である。研究協力者は、精神科医療そしてリハビリテーションが展開するその前夜から黎明期を生き、大きな転換期とされる時代のなか臨床に携わっていた森先生1名である。分析は事例研究法とした。森先生を突き動かした忘れえぬ人たちは、世間が忘れようとした、忘れられた人々であり、隔離され排除された人々であった。地域を変えていくために、内部矛盾も抱えながら働き続けた末の自責の念がにじむような森先生の「変わりえなかったみたいなとこ」という述懐は、現役世代が引き受けていかなければならない物語と受けとめられた。さらに「そばにいてくれるだけでいい」という応答は、生の証人のように、ただ、そっと隣人としてそこにいるかのようなイメージが与えられ、「多様性を認め」合う双方向コミュニケーションの出発点と考えられた。言葉にしきれぬ言い難さを残し、利口に処理せず慣れることなく「純粋に、見れる」感受性は「多様性を認め」合うケアの視点に活かされると思われた。一方で、ケアの互恵性の実際に関しては宿題が残った。

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