Abstract: | ウィリアム・ジェームズ・アシュレー(William James Ashley, 1860-1927)は,イギリス歴史学派を代表する人物の一人として,経済学史に名を残している。本稿が考察の対象にするのは,その経済学方法論に関わる側面である。アシュレーは,歴史学派のなかでも若い世代に属しており,方法論争に直接参加するというよりも,それを後から総括する立場にあった。総括の要点を整理すると,次のようになる。第一に,方法論争は,両陣営の研究者の適性と関心が相違していたことに起因するものであった。第二に,過激な歴史学派が抱いた望み,すなわち理論的方法を廃棄して歴史的方法によって置き換えるという望みは実現しなかった。しかし,第三に,方法論争は正統派経済学者の考え方に影響を与え,「学説の相対性」「社会現象の統一性」「行為の多元性」といった歴史学派の観点が,正統派にも共有されるようになった。第四に,方法論争の結果,ドイツにおいては理論的研究が,イギリスにおいては歴史的研究が,経済学上の一分野としての権利を獲得した。第五に,方法論争を通して,歴史学派の進むべき方向が明らかになった。それが経済史であった。 |