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紅藻ツルシラモ Gracilaria chorda Holmes (Gracilariaceae, Rhodophyta) の再生に関する研究

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Please use this identifier to cite or link to this item:https://doi.org/10.11501/3137198

Title: 紅藻ツルシラモ Gracilaria chorda Holmes (Gracilariaceae, Rhodophyta) の再生に関する研究
Authors: 村岡, 大祐 Browse this author
Issue Date: 25-Mar-1998
Publisher: Hokkaido University
Abstract: 再生とは個体の一部が失われた際に,それに該当する部分が復元される現象をいい,単細胞・多細胞生物を問わず広く生物界に認められる修復現象である。紅藻オゴノリ属植物(Gracilaria)は熱帯から温帯に広く分布する海藻で,強い再生力を持つことが知られている。藻体の細胞間には寒天成分のアガロースを大量に含んでいるため,寒天原藻としての需要が高く,現在では世界の寒天原票の約60%を担っている。この需要に伴い世界各地で様々な方法による増養殖が行われているが,その中でもロープに切断した藻体を挟み込む方法,あるいは藻体片を地まきする方法は,本属植物の強い再生力を利用した最も効率が良い増養殖の手段として広く採用されている。本研究ではツルシラモ(Gracilaria chorda)の藻体片を培養によって再生させ,その形態形成の過程を詳細に観察した。さらに,基質への接触,再生枝の切断,水温,光周期などが再生におよぼす影響について実験し,本属植物の繁殖,および増養殖に重要な役割を果たす再生現象について以下の点を明らかにした。培養実験に先立ち天然藻体を観察した結果,傷害を受けた部位には傷害組織(傷害を受けた部位を覆う,皮層状の組織)と再生枝(傷害部位に形成される新しい枝)の形成が頻繁に起こっていることを確認した。本種の主軸,および第一側枝から切り取った藻体片(円柱状,直径約1mm,長さ5mm)を培養した結果,傷害組織は先端側(藻体片の両切断面のうち,元の藻体の先端側)と付着器側(両切断面のうち,元の軍体の付着器側)の両切断面に形成された。先端側切断面の傷害組織は3-4層の細胞から成る皮層状の形態を示したのに対し,付着器側切断面の傷害組織は,縦方向の分裂により藻体片内で細胞塊にまで発達した。しかし,再生枝(平均2.5本)は先端側切断面の縁辺部からのみ形成され,付着器側切断面から生じることはなかった。以上の観察から,本種の藻体片の先端側と付着器側切断面の間には,形態形成上明瞭な極性が存在することを明らかにした。さらに,藻体から皮層組織だけを方形に切り取って培養した場合でも,先端側の一辺からのみ再生枝を生じ,極性がなお維持されていることを示した。先端側,または付着器側切断面を常に基質に接触させた状態で培養した結果,付着器側切断面からのみ仮根様組織が発達して基質に着生した。さらに,その仮根様組織からは直立体が発出した。一方,先端側切断面では,生じた再生枝の伸長が抑制されたのみで,接触刺激に対する形態形成の反応でも両切断面に極性が存在することを示した。藻体片の培養で生じた再生枝をすべて切断した場合,藻体片本体の先端側切断面から新たな再生枝を形成した。しかし,再生枝を1-2本残した場合,新たな再生枝を生じることはなく,本種の再生枝形成が残された再生枝によるアピカルドミナンス(頂芽優勢)の支配を受けていることを示唆した。長さ1-30mmの藻体片を培養し,再生に伴う生物量の変動を測定した結果,総生物量(藻体片,再生枝,再生側枝を合わせた重量)の増加は藻体片が長い場合ほど大きかった。特に30mmの藻体片では再生枝の他に藻体片の側面から多数の再生側枝を生じ,再生枝形成に次ぐ二次的な生長として生物量の増加に寄与していた。一方,藻体片の単位重量あたりの増加率は藻体片が短いほど大きかった。以上の結果は,本種を増養殖する際に,藻体片の大きさを再生側枝を形成する長さにすることが種苗として有効であることを示した。藻体の様々な部位から切り取った藻体片を培養したところ,主軸,側枝ともに下部由来の藻体片で総生物量の増加率が大きく,上部ほど低かった。一方,藻体片本体の増加率は逆に上部由来の藻体片で大きく,中央部,下部のものでは小さい値を示した。この差異は,各々の藻体片を構成する細胞の細胞年齢を含めた生理状態の差によるものと考える。藻体片を温度,および光周期条件を変えて培養した場合,藻体片の状態(長さ,藻体の部位など)に関わりなく,温度では20℃で,光周期では20L4Dで総生物量の最大増加率を示した。傷害組織の形成過程を透過型電子顕微鏡で観察し,以下の結果を得た。藻体に傷害を与えると直接切断された細胞からは核と細胞質が流失したが,それに直接接する細胞(隣接細胞)は正常な状態に維持されていた。切断後1-2日以内に隣接細胞の核と細胞質は切断面側に移動し,さらに隣接細胞のゴルジ体は増加すると同時に,多数の分泌小胞を細胞膜と細胞壁の間に放出した。隣接細胞には同時に多数の多胞体や分裂中の葉緑体も見られた。切断2日目,隣接細胞で最初の細胞分裂が起こった。分裂は周囲に細胞質を伴った分裂溝が細胞の両側から求心的に伸長することによって進み,複数核のうち一個を取り込んで新細胞を形成した。本種の細胞は多核であるため,新細胞の形成には核分裂を伴わず,一個の隣接細胞が同時に複数の新細胞を形成した。新細胞はさらに分裂を繰り返し,切断24日以内に切断面を覆う傷害組織を形成した。本種の新細胞形成,およびその後の傷害組織の形成に至るまでの時間は他種と較べて早かった。これは本種が新細胞形成の際に核分裂を必要としない多核細胞で構成されていることによるものと考える。また,切断面に露出した全ての隣接細胞でこの様な新細胞が形成されたことから,分裂能力を持たないと考えられてきた体の中心部を構成する髄層細胞を含めて,全ての細胞が傷害という環境変化に反応して新細胞を形成する潜在能力を有することを確かめた。傷害組織を完成した後,先端側切断面からは再生枝を,付着器側切断面からは仮根様組織を形成した。
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 甲第4482号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 水産学
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/51481
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Submitter: 村岡 大祐

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