HUSCAP logo Hokkaido Univ. logo

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers >
Theses >
博士 (水産学) >

漁業労働の現代的評価に関する研究

Files in This Item:
000000327314.pdf135.48 MBPDFView/Open
Please use this identifier to cite or link to this item:https://doi.org/10.11501/3142123

Title: 漁業労働の現代的評価に関する研究
Authors: 三輪, 千年 Browse this author
Issue Date: 30-Jun-1998
Publisher: Hokkaido University
Abstract: 漁業における生産力発展の推進力は,機械力の導入,普及に基づく漁業技術の発展にあったことはいうまでもない。しかしながら,全ての産業技術がそうであるように,その過程においては労働力の機械力への置き換えが単純に進行している訳ではない。漁業生産力の発展は新たな労働過程,新たな技術の再編を伴いつつ推進されていくものであるからである。本研究は,漁業労働過程における漁業用作業機械の導入,展開が漁業労働過程と労働力編成にいかなる変化と影響を及ぼしたのかについて,機械力導入の典型的業種と目される大型イカ釣船凍漁船の技術展開を対象として考察したものである。この考察を通して漁業生産力における技術の実体(存在形態,意義,あり方)にアプローチしうるものと考える。方法として,1. 大型イカ釣船凍漁船における船内での労働過程はイカ釣機などの漁労装置が自動・ロボット化したことでどの様に変化したのか。2. イカ釣漁船の船凍(冷凍)化は,漁獲物の処理・製造に従事する乗組員の労働と生活にいかなる影響を及ぼしたのか,という2つの側面から,労働と船内生活過程の具体的観察を行った。本研究では,自動イカ釣機などの漁業生産諸手段の科学技術的な発展過程を考察するだけでなく,漁業生産諸手段と対応する乗組員が労働体験から修得した「経験」や「勘」,さらには「技能」についても客観化しうるものと評価し,そのイカ釣漁業生産力へのビルト・インの過程を解明していく。第1章では,自動イカ釣機が自動・ロボット化することでイカ釣漁船乗組員の労働は漁獲労働から解放され,代わって,ロボット化した自動イカ釣機の監視労働と,イカ釣生産過程で突発的に発生する糸絡まりなどのトラブルの修復労働へと移行していくことを明らかにする。次いで,漁業用作業機械などが進化することにより,乗組員の労働形態・内容が変化する様を考察するとともに,漁労装置など生産手段が技術革新を遂げても,乗組員の「技能」が果たす役割があらためて重視されることを,イカ釣漁船での労働工程分析を通して実証的に明らかにした。第2章では,大型イカ釣船凍漁船での漁獲物の冷凍処理・製品化過程における乗組員の労働内容・形態を解明する。大型イカ釣船凍漁船が生産する冷凍イカ製品は,珍味加工原料及びスーパーマーケットや外食産業向けの総菜用加工原料として,同一サイズ,定品質,規格化が求められており,冷凍製品化過程においては製品の標準・規格化に沿った「マニュアル化」された労働が行われていることが明らかとなる。そして,かって荷役などの日本人乗組員の補助的な就労に限られていた外国人乗組員は,船内作業の大半が「マニュアル化」された今日では日本人とほとんど区別し得ない従事内・容となっている現実を明らかにした。さらに,品質管理分野での「マニュアル化」された労働過程の内実についての問題も指摘する。第3章は,大型イカ釣船凍漁船の冷凍機器の運転とメンテナンスを生産現場で指揮・監督し,冷凍イカ製品の品質管理責任者である機関長の船内での位置と労働過程を船内生活時間や行動分析を通してみていく。新たな技術的要請を伴っている船凍漁船内の製品化作業においては乗組員の作業により強度の高い労働が強制され,精神的での負担も強められている。第4章では,イカ釣漁業技術が「道具」の段階から「機械」(自動・ロボット化)へと発展していく過程の特徴を,イカ釣漁船内の作業体系変化,及び漁船の船凍化に伴う漁獲物の処理・製造過程の労働編成の展開と併せ,史的段階的に考察する。そして,イカ釣漁業におけるハード・システム技術の進展が,その下で働く乗組員の「技能」や「ノウハウ」といったソフト技術をも変化せしめるといった相互規定的な関係にあることを明らかにした。第5章においては,漁船での生産過程で生起する労働災害の態様と特徴を分析することによって,労働災害と漁業用作業機械などの生産システムとの関係について論述する。漁船での労働災害の多くは操業中に起こるものであること,また漁船乗組員の高年齢化や,外国人船員などの未熟練労働力の増加に関連した労働災害も増加している。労働災害は現実には技術の進歩ほどには減少しない。その要因として,漁業用作業機械の開発,導入がいわゆる熟練乗組員を中心としていることを明らかにした。本研究の結論は,次の3点である。第1に,漁業生産における機械化体系の展開は船内労働編成,労働過程のそれへの適従化をもたらすと共に,新たな「技能」労働の発生と対処の問題を惹起した。ここでは,近代的な装置を環境変化に合わせて有効に稼働させるためには,定型化した作業だけではこなし切れない作業領域における労働が不可欠であり,経験に培われた漁業者の「技能」の展開が重要課題になっている。、漁業の機械化体系において,客観化できる「技能」労働過程の評価軸,並びに新たな労働力養成の問題が提起されたというべきで、あろう。第2に,冷凍イカ製品の市場での需要拡大に伴って,船内の冷凍製品製造過程において市場の求める定型化した商品創造の工程が新たに付加され,従来の漁労作業体系とは異なった労働過程,労働環境が船内で造出されている。ここでも,安定した製品生産,商品管理の作業に対応した熟練乗組員の「経験」や「勘」に基づく作業が必要とされている。末端商品化の展開が生産過程に持ち込まれるこのと少なくない今日の漁業生産は,船内労働編成,及び労働力配置と養成においてあらためて合理的方策のあり方が検討されるべきである。第3に,漁業生産においても,ハード,ソフト両面にわたる技術革新によって,高年齢化し,未熟練な労働力でも対応可能な生産技術体系が創出されてきた。高齢者と未熟練な外国人の就業者が漁船漁業を担っている現状がある。しかし,漁業技術は彼らの就業を可能とする一方で,技術の導入に伴って必要とされる新たな技能労働が欠如した状況の中で,彼らを犠牲者とする労働災害も多発している。新たな技能労働の要請と併せ,労働安全や労働環境の側面から,労働編成と漁業技術のあり方が検討されるべきである。また,新しい漁業技術に対応した労務管理のあり方の考究とともに,労働力の質に対応した管理手法の確立も急がれるところである。
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 乙第5353号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 水産学
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/51561
Appears in Collections:学位論文 (Theses) > 博士 (水産学)

Submitter: 三輪 千年

Export metadata:

OAI-PMH ( junii2 , jpcoar_1.0 )

MathJax is now OFF:


 

 - Hokkaido University