HUSCAP logo Hokkaido Univ. logo

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers >
Theses >
博士 (理学) >

TRAPPIST-1 系地球型惑星における水蒸気大気の流体力学的散逸とその観測可能性

Files in This Item:
Kensuke_Watanabe.pdf6.87 MBPDFView/Open
Please use this identifier to cite or link to this item:https://doi.org/10.14943/doctoral.k13132
Related Items in HUSCAP:

Title: TRAPPIST-1 系地球型惑星における水蒸気大気の流体力学的散逸とその観測可能性
Authors: 渡辺, 健介1 Browse this author
Authors(alt): Watanabe, Kensuke1
Issue Date: 22-Mar-2018
Publisher: Hokkaido University
Abstract: 近年,太陽から12 pcの比較的近傍に位置する赤色矮星TRAPPIST-1に7つの系外惑星が発見され,もっとも外側の軌道を持つものを除く6つの惑星は地球程度の質量と半径を持つと推定されている.この中で3つの惑星は,惑星表層で液体の水が安定に存在することを許す中心星放射条件を満たしており,近い将来の新型宇宙望遠鏡による観測で液体の水や生命の有無について,手掛かりが得られるものと期待される. 理論的に,これらの惑星はスノーライン付近で形成され,内側に移動してきたことが示唆されており,少なくとも形成時点においては水を豊富に獲得していた可能性がある.その一方,赤色矮星は,形成後数億年間継続する前主系列段階において,高い光度を維持するため,それに伴い現在は穏やかな中心星放射を受けている惑星も,過去に暴走温室状態にあり,中心星のEUV放射によって水蒸気大気の流体力学的散逸を起こしていた可能性がある. これまでTRAPPIST-1系については,水蒸気があらかじめ大気下層で水素原子と酸素原子に全て解離した系を想定した半解析的な大気散逸モデリングしか行われてこなかった.しかし,水蒸気による放射冷却効果や水蒸気の光解離をもたらす吸熱反応は,散逸率を低下させる働きを持つはずである.また膨張した大気の観測可能性を考える場合,多数の大気成分の動径分布を理解することが重要である. そこで本研究では,多成分大気の一次元流体力学的散逸モデルを構築し,水蒸気による冷却効果や分子種間の化学反応過程を取り入れ,水蒸気大気からの大気散逸率を推定し,TRAPPIST-1惑星系からどの程度水が失われたのか,また現在も流体力学的散逸が起きていた場合に,散逸大気の観測可能性について明らかにする.水蒸気主成分大気に対し,流体力学的散逸の物理過程や,散逸量,現在の大気構造の観測可能性などを明らかにするのは本研究が初めてである. 本研究で構築した数値モデルは,成分間の相対運動を拡散過程として記述する.水蒸気から導かれる20種の化学成分の一連の化学反応を組み込み,またEUV照射の吸収,熱放射の射出については,主要成分の波長別の吸収断面積と大気内での放射伝達を考慮した.本モデルを,酸素含有成分を除き,ヘリウムとその派生成分を加えて,流体力学的散逸現象が確認されているホットジュピターHD 209458bの水素-ヘリウム大気にまず適用した.その結果,水素散逸流の流量,水素ガスおよび重元素の持ち上げに関する観測的制約を満たす結果が得られ,本数値モデルはHD209458bにおける流体力学的散逸を再現可能であることが確かめられた. 次に,本モデルを惑星表面に液体の水の存在が許容される軌道半径からわずかに内側に外れているTRAPPIST-1dに適用し,水蒸気大気の散逸率とEUV光度の進化を考慮した惑星年齢通じた総散逸量を推定した.この惑星に着目したのは,もし水が現存する可能性が示されれば,質量が大きく,中心星放射の弱いより外側の惑星に水が残っている可能性が高いといえるからである.流体力学的散逸の駆動源となるEUV光度はTRAPPIST-1のようなM8型の低質量恒星に対しては観測されていないため,同型の恒星に関するX線強度の観測値からスケーリングを行ってEUV光度進化を推定した.ただしX線強度の観測値の不定性を考慮して,強弱2通りのEUV光度進化を与えた. 数値計算の結果,主にEUV吸収を起こす高度領域において水蒸気による放射冷却が効き,散逸率が抑えられるとともに,水蒸気は計算領域下層で光解離し,上層では分子量の小さい大気成分が主要となることが示された.またEUV放射強度が地球軌道上の平均値の25倍以上の場合は,散逸する水素原子と酸素原子の間で顕著な質量分別は生じなかった. TRAPPIST-1dの形成から現在(約70億年)までの水素原子や酸素原子の総散逸量は強いEUV光度進化モデルに沿う場合,水素は316地球海洋水素質量相当,酸素は268地球海洋酸素質量相当である.弱いEUV光度進化モデルに沿う場合は,総散逸量は著しく小さくなり,両元素とも約1海洋質量相当となった.前者の場合の総散逸量は,惑星質量の約15%に相当する.ただしこの場合であっても,この惑星がスノーライン付近で形成され,初期に水を豊富に獲得した場合には,現在でも水を保有している可能性がある. 強いEUV光度進化モデルに沿う場合,TRAPPIST-1系の惑星では,今も流体力学的散逸が起きている可能性があり,この場合には高高度まで水素原子や酸素原子が持ち上げられる.そこで強いEUV光度進化モデルにおける現在のEUV放射を与えた場合の組成分布を用いて,トランジット最中央点における恒星光の減光率を推定した.TRAPPIST-1dでは,Ly-α線の減光率が約30%, OI輝線で約25%となり,惑星の中心星に対する面積比に比べて著しく大きな減光率を示す.TRAPPIST-1b, c, e, f, gにも同様に当てはめたところ,ハビタブルゾーンに位置するTRAPPIST-e, fに対してTRAPPIST-1dと同程度の減光率が得られたのに対し,TRAPPIST-1cについては惑星の重力による束縛が強く,大気上層の密度が希薄になるため,減光率はいずれの輝線も10%未満となった.これらの減光率からHubble Space Telescope (HST)や2020年代打ち上げ予定のWorld Space Observatory-Ultraviolet (WSO-UV)で観測した場合,大気成分の同定に必要な露光時間を見積もった.HSTでTRAPPIST-1b, c, d, e, fのトランジット観測がなされた場合,Ly-α線の減光は一度のトランジット観測で検出可能であるが,OI輝線の減光は検出が困難である.しかし,WSO-UVでトランジット観測が行われた場合,OI輝線の減光を検出するための露光時間はTRAPPIST-1d, e, fで約50時間となる.この露光時間と各惑星のトランジット継続時間や公転周期を用いると,1年程度の観測期間があれば,酸素大気の検出が可能である.
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 甲第13132号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 理学
Examination Committee Members: (主査) 教授 倉本 圭, 教授 高橋 幸弘, 准教授 石渡 正樹, 准教授 亀田 真吾 (立教大学理学部物理学科)
Degree Affiliation: 理学院(宇宙理学専攻)
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/73156
Appears in Collections:課程博士 (Doctorate by way of Advanced Course) > 理学院(Graduate School of Science)
学位論文 (Theses) > 博士 (理学)

Export metadata:

OAI-PMH ( junii2 , jpcoar_1.0 )

MathJax is now OFF:


 

 - Hokkaido University