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気持ちよさを提供する温タオル貼用清拭が入院患者の心身に及ぼす影響

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Please use this identifier to cite or link to this item:https://doi.org/10.14943/doctoral.k14424
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Title: 気持ちよさを提供する温タオル貼用清拭が入院患者の心身に及ぼす影響
Authors: 宍戸, 穂 Browse this author
Issue Date: 25-Mar-2021
Publisher: Hokkaido University
Abstract: 清拭は,入浴やシャワー浴ができない患者の皮膚を清潔に保つことで皮膚の恒常性を保持し,患者の生活の質(Quality of life)にも関わる日常的な看護ケアである.しかしながら,清拭の方法によっては皮膚乾燥の進行やスキンテアの発生,患者の攻撃的な行動の引き金になり得るといった報告もある.そこで,安全で気持ちよい清拭の実施を目指し,看護師の経験知でもある清拭タオルを一度皮膚に貼用しながら清拭する手技に着目した(以下,温タオル貼用清拭とする).温タオル貼用清拭を実施するか否かは各看護師の判断に委ねられており,その効果やメカニズムは検証されていなかった.先行研究では,高齢者および健康成人を対象とし,温タオルの短時間貼用に関する実験及び介入研究を行ってきた.その結果,①皮膚温および角質水分量の上昇度と対象者の主観的評価の高さより,有効な温タオルの貼用時間は 10 秒間であること,②健康成人は貼用の有無によって皮膚バリア機能に差は生じない.一方,高齢者の前腕屈側では貼用なし清拭に比べて,温タオル貼用の加湿により角層の水分量が増し,拭き取りによって皮膚バリア機能が悪化しないこと,③背部においては,拭き取りのみの清拭よりも温タオル貼用清拭の皮膚温は有意に高く,清拭前よりも 0.5℃上昇し,温かさと気持ちよさを提供できることを明らかにした. しかし,臨床での温タオル貼用清拭の実践に向けての課題として①温タオル貼用の実施部位として選択される背部の皮膚バリア機能への影響,②対象者が温タオル貼用清拭によって「気持ちいい」と感じる際の心身に及ぼされる影響,③連続的な介入による皮膚バリア機能・心理的側面への影響を明らかにすることが挙げられる.解剖学的な特徴から温熱刺激による効果が期待できる背部では,皮脂腺が多く分布し,皮膚バリア機能が前腕屈側とは異なると報告されている.また,「気持ちいい」や Comfort に関する概念分析および文献レビュー,温熱刺激による快適感と脳領域の活性に関して神経学的な評価を実施した先行研究の結果より,温タオル貼用清拭は温かさや気持ちよさを提供するだけではなく,リラクゼーション効果が得られることや,活力・意欲,関係性の深まり等の効果があるのではないかと考えた.さらに,患者が「気持ちいい」と感じるケアを繰り返し実践していくことで,回復に向けた行動変容といった健康探索行動につながるのではないかと予測した.特に,入院患者のように症状や体動制限等に伴う苦痛を抱える対象者にこそ,温タオル貼用清拭は有効であるのではないかと予測したが,これまでの研究では,実際に清拭を必要とする入院患者への温タオル貼用清拭の効果を評価できていない.そこで三段階に分け,気持ちよさをもたらす入院患者への温タオル貼用を取り入れた清拭の有効性を検証した.第一段階(第二章)では,健康成人の背部への 10 秒間の温タオル貼用清拭は皮膚状態を悪化させることなく,拭き取りのみの清拭同様に清浄度が高まることを明らかにした.第二段階(第三章)では,第一段階において温タオル貼用清拭による気持ちよさが得られることに加え,対象者より「お風呂みたい」といった反応が得られたことから,リラクゼーション効果が得られるのではないかと予測し,健康成人 50名を対象に心拍変動と血圧,心拍数を測定し,背部への温タオル貼用清拭が自律神経活動に及ぼす影響を評価した.その結果,温タオル貼用清拭は自律神経活動には影響を及ぼさず,10 秒間の貼用における気持ちよさは身体的なリラクゼーションとは異なる可能性が示唆された.第三段階(第四章)では,入院患者への温タオル貼用清拭の皮膚バリア機能および心理的側面における有効性を検証することを目的とした.循環器疾患の専門病院である A 病院に入院する 32 名を 2 群に分け,温タオル貼用清拭(貼用あり群)または貼用なし清拭(貼用なし群)を最大で 3 日間行った.測定指標は,皮膚バリア機能について,角質水分量(SCH),経表皮水分蒸散量(TEWL)および Overall dry skin score(ODS)を,対象者の心理的側面は,質問紙による主観的評価および 3 回目の介入後にインタビューを行った.介入 1 回目における皮膚バリア機能は,清拭前,清拭 1-2 時間後,清拭翌日の測定値を線形混合モデルにて比較した結果,SCH の測定時点の主効果のみ認められ(F [df]=5.2 [2, 56.9],p=.009),貼用なし群で清拭 1-2 時間後に一度減少傾向にあった SCH が清拭翌日にかけて上昇した.TEWL の値は群間・前後差が無かった.3 回の介入を行った 13 名(貼用あり群 7 名,なし群 6 名)の介入前から介入 3 回目翌日におけるSCH の変化にはばらつきがあり(貼用あり群-11.2~+7.6A.U.,貼用なし群-3.0~+11.9A.U.),TEWL は貼用あり群で 7 名中 5 名が低下し(-24.0~+1.6g/m2h),貼用なし群で 6 名中 5 名が上昇した(-1.3~+3.8g/m2h).これらより,単回の温タオル貼用清拭では皮膚バリア機能が維持されていると考える.また,3 回の連続介入後拭き取りという摩擦刺激が繰り返されるによる皮膚バリア機能の脆弱化が予測されるが,温タオル貼用によって水分を角層・皮膚表面に付加することで摩擦刺激から皮膚を保護し,バリア機能が良い状態となる可能性が示唆された.介入 1 回目における心理的評価は,気持ちよさなどの清拭に対する評価は群間差がなく,清拭前後の比較では両群共にリラックスについて,貼用あり群ではやる気も清拭後に上昇した(p<.05).介入中の言動およびインタビューの結果より,貼用の有無に関わらず気持ちいいの帰結・Comfort である【緩和】【安らぎ】【満足感】【活力・意欲】に該当する発言が聞かれ,温タオル貼用清拭においては「心も清潔になる」「幸せ」「単調な生活が楽しくなる」といった発言や【関係性の深まり】に該当する反応も見られた.疾患や治療に伴う不安,緊張,制限などを抱える心臓疾患患者への温タオル貼用清拭は,これらの苦痛が除去あるいは軽減し,さらには気持ちいいや Comfort をもたらす可能性が示された.不安を含む不安定な心理状態は心臓疾患患者にとって,QOL に障害をきたす一つの要因であり,10 秒間という短時間の介入によってこうした効果が得られることは意義があると考える.今後は症例数の追加や異なる疾患の患者への介入を行い,温タオル貼用清拭の有効性や適応について検討する必要がある.
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 甲第14424号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 看護
Examination Committee Members: (主査) 教授 佐藤 洋子, 教授 伊藤 陽一(北海道大学病院臨床研究開発センター), 教授 矢野 理香, 准教授 鷲見 尚己
Degree Affiliation: 保健科学院(保健科学専攻)
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/81578
Appears in Collections:課程博士 (Doctorate by way of Advanced Course) > 保健科学院(Graduate School of Health Sciences)
学位論文 (Theses) > 博士 (看護学)

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OAI-PMH ( junii2 , jpcoar_1.0 )

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