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光刺激脱離-共鳴多光子イオン化法を用いた低温H2O氷表面におけるOHラジカルの挙動に関する研究

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Please use this identifier to cite or link to this item:https://doi.org/10.14943/doctoral.k14786
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Title: 光刺激脱離-共鳴多光子イオン化法を用いた低温H2O氷表面におけるOHラジカルの挙動に関する研究
Authors: 宮﨑, 彩音 Browse this author
Issue Date: 24-Mar-2022
Publisher: Hokkaido University
Abstract: 星間空間には,ガスと星間塵から形成された星間分子雲と呼ばれる低温(~10K )の領域が存在する.星間塵が外部からの紫外線を吸収・散乱するため,星間分子雲内で生成された分子は紫外線の影響を受けにくく,解離を免れて比較的安定して存在することができる.これまでの天文観測により,水分子(H2O)や一酸化炭素(CO)などの始原的な分子から,メタノール(CH3OH)やグリコールアルデヒド(CH2OHCHO)などの有機分子まで検出されている.星間分子雲における分子の生成過程には,気相反応と星間塵が関わる反応が存在する.星間塵上での反応は表面が反応の第三体となって反応熱を逃がすことができるため,グリコールアルデヒド等の気相では生成されにくい複雑な有機分子( Complex Organic Molecules: COMs )の生成において重要な役割を果たすと考えられている. 特に,星間塵表面におけるラジカル同士の反応は反応の活性化障壁がない(あるいは非常に低い)ため,COMs などの分子を効率的に生成できる反応過程として注目を集めている.星間塵は,ケイ酸塩や炭素系からなる固体微粒子が H2O を主成分としたアモルファス氷をまとった構造をしている. 10K程度の低温下では,星間塵表面のラジカルは,氷の光分解や気相からの吸着によって蓄積される.その後,星形成などに伴う温度の上昇により,ラジカルは動きだし反応に至る.したがって,星間塵におけるラジカル同士の反応過程を明らかにするには,星間塵 H2O 氷表面におけるラジカルの振る舞い,化学・物理的な性質に関する情報が必要となる.本研究は,星間分子の生成過程において重要な役割を果たす星間塵表面におけるラジカルの化学・物理的な性質を調べるため,氷表面ラジカルを直接検出する手法の開発を行った.さらに,開発した手法を用いて氷表面に存在する OH ラジカルの吸着状態および熱的拡散について調べ, H2O 氷表面における OH ラジカルの熱的拡散の活性化エネルギーを決定した.本研究の研究対象を OH ラジカルとした理由は, OH ラジカルが H2O 氷と水素結合を持つため表面に強く吸着すると予想でき, OH ラジカルが検出できる手法ならば他のラジカル種にも適用できる可能性が高いと考えたためである.また, OH ラジカルは星間塵において水素原子と酸素原子の反応や H2O 氷の光分解などによって生成されるため,さまざまな温度環境下で比較的多量に星間塵表面に存在するはずである.したがって, OH ラジカルはさまざまな星間分子の生成過程に影響を及ぼしていると考えられ,その化学・物理的な性質は星間分子の生成過程を解明するうえで非常に重要である.第1章では,星間分子雲や星間分子の生成過程について説明した後,これまでの星間分子の生成過程に関する実験的研究について述べ,本研究の必要性について言及する.第2章では,本研究で開発した光刺激脱離-共鳴多光子イオン化法(PSD REMPI法)に用いた実験手法の原理を述べ,実際に開発・使用した実験装置の全体像と実験手順を示す.第3章では, PSD REMPI法で氷表面 OH ラジカルが適切に検出できているか実験的に確かめた成果を述べる.また,実験的に得られた OH ラジカルの氷表面における吸着状態や脱離メカニズムの示唆についても言及する.さらに,量子化学計算を用いて得られた H2O 氷表面に存在するさまざまな吸着サイトにおける OH ラジカルの吸着エネルギーと,実験により得られた結果を比較し考察を行った.第4章では,OH ラジカルの H2O 氷表面における拡散の活性化エネルギーを定めるために実施した実験とその結果,得られた活性化エネルギーについて述べる.第5章では,本研究について総括した.従来の実験手法である赤外分光法や昇温脱離法では氷表面ラジカルを高感度に検出することは難しく,氷表面におけるラジカルの化学・物理的な性質を調べることは困難であった.そのため本研究では,氷表面に存在するラジカルを非熱的・非破壊的に表面から気相へと脱離させることができる光刺激脱離法と,気相に存在する分子種を選択的にイオン化して高感度に検出できる共鳴多光子イオン化法を組み合わせた PSD REMPI法を用いた.この手法は氷表面に存在する水素原子を検出するために開発された手法であり, 氷表面 OH ラジカルに適用できるかは明らかではなかった.そのため,装置の改良などを重ねながら氷表面OH ラジカルを安定して検出できるように,手法の開発をおこなった.開発した手法を用いて氷表面 OH ラジカルを測定すると,異なる並進エネルギーを持つ2種類の OH ラジカルが検出された.並進エネルギーは氷表面における吸着状態や表面からの脱離メカニズムによって変化するため, 2種類の OH ラジカルの吸着状態や脱離メカニズムをさまざまな測定を行うことで実験的に調べた.その結果,並進エネルギーの低い成分は氷表面に弱く吸着し,基板からのフォノン伝達を介した脱離過程によって表面から脱離していることがわかった.一方で、並進エネルギーの高い成分は氷表面に強く吸着し, 532nm (2.3eV)の1光子吸収により引き起こされる光化学プロセスによって表面から脱離していることが示唆された.しかしながら、気相の OH ラジカルや H2O 氷は 532nm(2.3eV)を吸収せず,その光化学プロセスについて実験的に迫ることは困難であった.光化学プロセスによる脱離メカニズムについて考察を深めるため,量子化学計算によって得られた H2O 氷表面に存在する OH ラジカルの吸着サイトや吸着エネルギーと実験結果を比較した.その結果,表面 H2O 分子との間に3本の水素結合を持ち氷表面に最も強く吸着する OHラジカルは 532nm(2.3eV)を1光子吸収して励起状態になり,表面からの解離チャンネルに移るという脱離過程が提案された.これまで,星間塵表面からの原子・分子の脱離過程には可視光による脱離過程は考えられていなかったため,今回の発見により考慮する必要性があることが明らかとなった.表面における拡散過程は,さまざまな吸着サイトを移動する必要があり,最も強い吸着サイトで律速される.本研究では,高い並進エネルギーを持つ氷表面に最も強く吸着した OHラジカルを測定することで,実験的に初めて H2O 氷表面における OH ラジカルの拡散の活性化エネルギーを 0.13±0.01eV と定めた.今後は,他のラジカル種に関して本研究と同様の手順で実験を行い,拡散の活性化エネルギーを実験的に定めることで,複数の生成過程が競合する COMs のような分子の生成過程を明らかになっていくであろう.本研究の成果および 開発した PSD REMPI法により,氷表面ラジカルの化学・物理的な性質に関する研究が進み,星間化学分 野において更なる進展が見られることを期待する.
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 甲第14786号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 理学
Examination Committee Members: (主査) 教授 渡部 直樹, 教授 佐﨑 元, 教授 香内 晃, 准教授 大場 康弘, 准教授 木村 勇気
Degree Affiliation: 理学院(宇宙理学専攻)
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/89165
Appears in Collections:課程博士 (Doctorate by way of Advanced Course) > 理学院(Graduate School of Science)
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