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放射線照射下におけるDNA損傷生成率のシミュレーション研究

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Please use this identifier to cite or link to this item:https://doi.org/10.14943/doctoral.k15341
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Title: 放射線照射下におけるDNA損傷生成率のシミュレーション研究
Authors: 谷内, 淑惠 Browse this author
Issue Date: 23-Mar-2023
Publisher: Hokkaido University
Abstract:  現代医療において放射線の利用は診断や治療に欠かすことができない。しかし、放射線を生体へ照射した際の影響には、病変の検出や評価、がん細胞の殺傷というメリットだけでなく、正常組織の損傷や発がん等というリスクもある。したがって、これらの放射線生体影響を正確に評価することが重要である。  電離放射線が生体へ入射した際、生体組織との相互作用により二次電子線が発生する。二次電子線は生体中を進みながら相互作用(電離、励起等)を引き起こし、エネルギーを付与する。このとき、DNA構造を直接損傷する、もしくは生体組織へのエネルギー付与により発生したラジカルがDNA構造を損傷することにより、DNA損傷が誘発される。DNA損傷には様々な種類があるが、DNA二本鎖切断(DNA double-strand breaks, DSBs)はDNA損傷の中でも染色体異常や細胞死を誘発する損傷であり、その生成率は電離放射線の生物学的影響を評価する上で重要な指標である。さらに、10塩基対以内に追加の鎖切断を含む複雑なDSB(complex DSB)は、単独のDSB(simple DSB)よりもさらに複雑な損傷であり、修復が困難である可能性が指摘されている。したがって、complex DSB生成率の定量化は、生物学的影響のより正確な評価に必要である。  放射線照射後の物理学的過程を評価するために、モンテカルロ(Monte Carlo, MC)シミュレーションを用いた電子線飛跡構造解析コードの開発が進められている。MCコードでは、放射線の飛行距離・散乱角度・物質との衝突の種類を、乱数を用いて決定することにより、飛跡構造を模擬することが可能である。現在までに複数のコードが開発されており、その種類としてin-houseコードであるWLTrackや汎用の粒子線飛跡解析コード(Particle and Heavy Ion Transport code System, PHITS))が挙げられる。  現在まで、放射線防護や放射線治療における生物学的影響に関する様々な研究が行われてきたが、その評価(とくに物理学的過程から生物学的過程を通した評価)は依然として改善の余地がある。そこで本研究では 2つのMCコードを使用し電子線飛跡解析を行うことにより、物理学的過程に基づいて初期の生物学的過程(とくに複雑なDSB生成率)を解析することを目的とした。そして、この目的に応じた基礎研究「電子線飛跡構造解析に基づく複雑なDNA損傷生成の実験的解析」および応用研究「MRI融合放射線治療における電子線飛跡構造およびDNA損傷生成率に対する磁場の影響評価」に取り組んだ。  細胞核内DSBサイトの一般的な実験的検出方法に、ヒストンタンパク質H2AX(H2A histone family member X)のリン酸化を蛍光標識にて検出するγ-H2AX focus 形成法が挙げられる。DSBの両端から10塩基対以内の範囲に追加の鎖切断が存在する損傷(complex DSB)は、γ-H2AX focus形成法を使用してfociサイズを解析することで検出可能であると考えられている。しかし、fociサイズとDSBの複雑さとの関係は明らかにされていない。本研究では、2つの電子線輸送モンテカルロコード(WLTrackおよびPHITS)を組み合わせることにより、γ-H2AX foci顕微鏡画像から光子線照射により誘発されるcomplex DSBの定量化を可能とする解析手法を開発した。まず、非弾性散乱イベント(電離および励起)がDNA鎖切断を誘発する可能性があると仮定し、WLTrackを使用し液相水中内の電子線飛跡に沿ってcube(5.03 x 5.03 x 5.03 nm3)を配置し、cube内のイベント数を計数した。次に、γ-H2AX focus形成法によって測定されたfociサイズとWLTrackにより得られたcube内イベント数との関係性を評価した。さらに、イベント数とfociサイズの関係性を利用し、fociサイズから様々なスペクトルのX線照射後に誘発される DSBの複雑さを解析し、PHITSに実装されている十分に検証されたDNA損傷推定モデルによって推定されたDSBの複雑さの解析結果と比較した。その結果、cube内のイベント数はfociサイズに比例し、イベント数がDSBの複雑さを反映していることが示唆された。本研究にて開発された解析手法は、さまざまなX線スペクトル(診断用kVpX線および治療用MV X線)で測定されたfociデータに適用可能であることが明らかとなった。この解析手法は、γ-H2AX focus形成法による光子照射後の初期の生物学的影響の正確な理解への寄与が期待される。  また、近年、磁気共鳴誘導放射線治療法 (Magnetic resonance-guided radiotherapy, MRgRT) が開発され、様々な臨床施設で外部放射線療法用に導入されている。MRgRTにて照射された荷電粒子は、ローレンツ力の作用を受け線量分布が変化することが報告されている。しかし、ローレンツ力が低エネルギー電子線の飛跡構造と初期のDNA損傷生成率に及ぼす影響は明らかにされていない。本研究では、PHITSに搭載された、1 meVを下限とする低エネルギー電子線を模擬することが可能な飛跡解析モード(etsmode)を使用して、磁界下における電子線飛跡構造と生物学的効果を推定した。液相水中における300 keV以上の電子線エネルギーによる巨視的な線量分布は、垂直磁場および平行磁場の両方で変化し、ローレンツ力が腫瘍内の線量計算に影響を及ぼすことを示した。一方、原子間相互作用の空間分布に基づくDNA損傷生成率の推定では、DSBの生成率が磁束密度に依存しなかった。これは、DSBの生成が主に数十eV以下の二次電子線に起因し、そのエネルギー付与の空間分布はローレンツ力にほぼ影響されないことが要因である。本研究より、線量分布へのローレンツ力の影響のみを考慮してMRgRTの治療計画を立案することが可能であることを示唆している。  本研究では、電子線飛跡解析シミュレーションを用いてDSB生成率を推定することにより、電子線および光子線照射時の生物学的影響を評価した。その結果、光子線照射時の複雑なDSB生成率を解析可能とする新たな実験的手法の開発に成功した。また、電子線飛跡構造への磁場の影響を推定し、MRgRTにおける電子線照射での生物学的影響としてローレンツ力が重要であることを示した。これらの結果から、放射線照射後の物理学的過程(電離・励起の空間分布)のシミュレーション解析から放射線治療に資する生物学的過程の初期応答(DNA損傷生成率)のより高精度な推定を可能にした。
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 甲第15341号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 保健科学
Examination Committee Members: (主査) 教授 神島 保, 准教授 福永 久典, 教授 久下 裕司 (アイソトープ総合センター)
Degree Affiliation: 保健科学院(保健科学専攻)
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/89400
Appears in Collections:課程博士 (Doctorate by way of Advanced Course) > 保健科学院(Graduate School of Health Sciences)
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