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クローン生殖を行うドジョウに特異的な遺伝学的マーカーの開発と野生型系統の実験交配による特殊な生殖様式の再現に関する研究 [全文の要約]

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Please use this identifier to cite or link to this item:http://hdl.handle.net/2115/89797
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Title: クローン生殖を行うドジョウに特異的な遺伝学的マーカーの開発と野生型系統の実験交配による特殊な生殖様式の再現に関する研究 [全文の要約]
Authors: 柴田, 季子 Browse this author
Issue Date: 23-Mar-2023
Publisher: Hokkaido University
Abstract: 多細胞生物の多くは、配偶子という特別な細胞を通じて、次世代に遺伝情報を伝えている。真核生物の配偶子は、減数分裂の過程における相同染色体の対合と乗換えの機構により遺伝的に多様化する。一方、自然界に生息する一部の魚類では、組換えのないクローン性非還元卵を形成し、発生を開始するために近縁の有性生殖種の精子を必要とするが、卵核のゲノムのみで発生する単性生殖 (雌性発生) を行う。しかし、これらの魚類が、どのようにして特殊な生殖様式を獲得し、現在に至っているのかについては不明な点が多い。この特殊な生殖様式を所持した硬骨魚類は、全て有性生殖を行う異種間の交雑に起源がある。また、クローン性の非還元卵は、減数分裂以前にゲノム倍加 (減数分裂前核内分裂) により 4 セットの染色体を所持した卵母細胞が生じ、これらが複製と姉妹染色体間での対合を経て、通常の減数分裂と同様の 2 回の分裂過程により形成される。従って、交雑による雑種化と雌性発生のような単性生殖の間には相互関係があると考えられる。さらに、特殊な生殖様式をもつ雑種の起源となった両親種の間にはゲノム上の特定の領域の配列多型や染色体構造の違いが存在すると考えられ、これが特殊な生殖機構を発現する鍵となることが予想されるため、両親種のゲノムの比較が強く求められる。本研究の材料であるドジョウMisgurnus anguillicaudatus の多くは有性生殖を行う二倍体であるのに対し、日本の一部の地域では遺伝的に同一なクローン系統 (クローンドジョウ) が分布する。クローンドジョウは減数分裂前核内分裂によって非還元卵を形成し、雌性発生により繁殖する。日本に生息するドジョウは遺伝的に分岐した 2 つの集団 (A 系統と B 系統) が存在し、クローンドジョウはこの 2 系統の交雑に起源することが示唆されている。一方、クローンドジョウと同じゲノム構成となる A 系統と B 系統のドジョウの人為的な交配により作出した系統間雑種は、非還元卵を形成するが雌性発生は行わない。そのため、両者のゲノムは遺伝的に異なることが考えられるが、クローンドジョウとその起源となった 2 系統の遺伝学的な比較は十分に行われていない。そこで、これらの違いを検出できる遺伝マーカーの開発が求められている。ドジョウでは自然雑種のクローンドジョウと人為雑種の系統間雑種の比較が可能であるため、過去の雑種形成から単性生殖を行うまでの過程の解明が期待される。そこで、本研究では、クローンドジョウが非還元卵形成と雌性発生を生じたメカニズムを明らかにすることを目的とし、クローンドジョウに特異的な遺伝学的マーカーの開発およびクローンドジョウが持つ特殊な生殖様式の再現を実験的に検討した。本学位論文は、下記の六章により構成される。第一章では、ドジョウの 5S rDNA が系統判別マーカーや細胞遺伝学的マーカーとして有用か否かを明らかにするため、A 系統、B1 系統、B2 系統およびクローンドジョウにおける 5S rDNA 領域の配列と染色体上の位置を調査した。その結果、A 系統、B1 系統、B2 系統およびクローンドジョウの 5S rDNA の遺伝子領域の配列はよく類似しており、系統判別マーカーとして利用できなかった。また、全ての系統において、5S rDNA 領域は次中部動原体着糸型染色体の短腕に位置し、それぞれの系統を識別する細胞遺伝学的マーカーとしても利用できなかった。しかし、5S rDNA の非転写領域である NTS 領域では、A 系統と B系統において特異的な配列多型が確認でき、クローンドジョウは A 系統由来の配列と B 系統由来の配列の両方を持つことが明らかになった。第二章では、現在の A 系統とクローンドジョウが所持する A 系統に起源するゲノム(A’ゲノム) の細胞遺伝学的な違いを明らかにするため、B 系統の全ゲノムデータ解析から単離した反復配列である M407 領域を標識するプローブ (M407 プローブ) を用いた FISH解析を行った。その結果、M407 プローブのシグナルは、B 系統では1組の最大中部動原体着糸型染色体短腕のテロメア側で検出されたのに対し、A 系統では検出されなかった。また、系統間雑種では B 系統に由来する1つの染色体だけで検出された。一方、クローンドジョウでは2つの染色体で検出されたことから、A ゲノムと A’ゲノムは細胞遺伝学的に異なることが示された。第三章では、M407 領域の存否に基づいて、A ゲノムと A’ゲノムを PCR により識別するための遺伝マーカーを開発した。その結果、PCR によりゲノム構成が AA と A’A となる個体の識別を可能にした。第四章では、自然における A 系統と B 系統間の遺伝的交流の有無と A’ゲノムを所持する個体の存否を明らかにするため、A 系統と B 系統、さらにクローンドジョウの生息が報告されている北海道全域からドジョウを採集し、集団遺伝学的解析を行った。その結果、北海道に生息する A 系統と B1 系統の同所的な生息が確認され、交雑が認められたことから、現在も遺伝的な交流があることが示された。そして、これまでクローンドジョウの生息が確認されている道東網走地方以外の、十勝地方の池田町にもクローンドジョウが生息することが強く示唆された。しかし、A’ゲノムを所持した個体は検出できなかった。第五章では、ドジョウの人為系統間雑種に見られる還元/非還元卵形成に対する継代の影響を明らかにすることを目的とし、まず A 系統と B1 系統間の正逆交雑により系統間雑種 F1 を作出した。次に、F1 の産する非還元卵を人為雌性発生させて F2 世代を誘起し、さらに、F2 の非還元卵を用いて同様の方法で F3 世代を作出した。そして、これらの形成する配偶子の倍数性と自然雌性発生の有無を比較した。その結果、F1 の雌は半数性の卵と二倍性の非還元卵を同時に排卵し、それらの比率は個体によって異なった。しかし、F1と同じ遺伝子型の F2 や F3 では半数性卵と非還元卵の比率は類似していた。従って、各個体の間で、両親から伝達された染色体の組合せや相同染色体間の相同性が異なることにより、半数性卵と非還元卵の比率は変化し、非還元卵形成の形質は子孫に遺伝することが示唆された。一方、人為系統間雑種では継代しても雌性発生は生じなかった。第六章では、ドジョウの異質三倍体において、ゲノム構成と形成する卵の倍数性の特徴の関係を明らかにすることを目的とし、3 種類のゲノム構成 (AA’B、BA’B、BAB) の個体を作出し、それぞれが形成する卵の倍数性を調査した。その結果、ドジョウの異質三倍体ではゲノム構成に関わらず、多くは、減数分裂雑種発生により半数性の卵を形成した。しかし、半数性以外の倍数性の卵の形成はゲノム構成によって異なった。これらのことから、クローン生殖するクローンドジョウは、A 系統と B1 系統の交雑による系統間雑種を起源とし、一部の非還元卵を高頻度に形成する個体が偶発的に雌性発生の形質を獲得することにより誕生したと考えられる。
Description: この博士論文全文の閲覧方法については、以下のサイトをご参照ください。
Description URI: https://www.lib.hokudai.ac.jp/dissertations/copy-guides/
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 甲第15253号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 水産科学
Examination Committee Members: (主査) 教授 澤辺 智雄, 教授 水田 浩之, 准教授 藤本 貴史, 助教 西村 俊哉, 教授 山羽 悦郎 (北方生物圏フィールド科学センター), 名誉教授 荒井 克俊
Degree Affiliation: 水産科学院(海洋応用生命科学専攻)
Type: theses (doctoral - abstract of entire text)
URI: http://hdl.handle.net/2115/89797
Appears in Collections:課程博士 (Doctorate by way of Advanced Course) > 水産科学院(Graduate School of Fisheries Sciences)
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