| Abstract: | 歯の外傷には歯冠, 歯根の破折, 異常な動揺や歯の転移を伴わない震盪, 歯の転移はないが動揺を伴う亜脱臼, 歯軸方向以外への転移を伴う側方脱臼, 歯の根尖方向への転移を伴う陥入, 切縁方向への転移を伴う挺出, 歯槽骨からの歯の完全な脱離を伴う完全脱臼がある. その中でも, 一番重篤なものの一つに完全脱臼があり, 受傷の約1.5～16%1)で発生している. 脱臼後1 時間以内に処置を行うことができれば予後は比較的良好だが, 再植までに要した時間で最も多いのは1～4 時間であったと報告されている2). 再植が遅れると予後不良となる場合が多く, Guedes らの研究では, 外傷後1～8 年間で34.34%の炎症性歯根吸収が発生していたと報告されている3).脱臼から長時間経過し, 歯根周囲の組織の生存が期待できない場合は, 根管治療が必要となる. 外傷歯における歯根吸収は歯根膜の乾燥が主な原因とされているが, 歯髄壊死とも関連がある4). 国際歯科外傷学会 (IADT)の歯科外傷ガイドでは, 1 時間以上経過した歯に対しては, 口腔外での歯髄処置が推奨されている5). 脱臼歯の治療に使用する根管貼薬剤には, 外傷時に起きる炎症に対する抗炎症作用, 脱臼後に起こる細菌感染に対する抗菌作用, 予後不良時の歯根吸収に対する歯根吸収抑制作用が必要と思われる. 現在, 一般的には水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)製剤が広く使用されている. Ca(OH)₂は, 抗菌作用6), 抗炎症作用7), 硬組織形成能8), 歯根吸収抑制作用9)を持つため, 外傷歯の根管貼薬剤として適している. しかし, Ca(OH)₂の根尖孔外への漏出は合併症を引き起こす可能性がある10). また, 長期使用は歯根象牙質を脆弱化させるとの報告があり11), 長期の使用は難しい. そのため, 新規な根管貼薬剤の開発が期待されている.抗酸化アミノ酸であるN-アセチルシステイン(NAC)は, 生体内で抗酸化作用を示すグルタチオンの前駆体である. 抗菌作用を持ち12,13), 炎症性サイトカインであるTNF-α の発現を抑制することで抗炎症作用を示すことが報告されている7). これらの報告からNAC が歯髄の細菌感染, 外傷による炎症に対応することができると考えられる. ここで, 歯根吸収抑制作用を示せば根管治療薬としての使用を検証することが可能と思われる. しかし, 歯根吸収を抑制するとの報告は多くない.本研究では, NAC の外傷歯の歯根吸収に対する効果を検証するために, ラットの上顎第一臼歯を用いて外傷歯モデルを作製し, 歯根吸収に対する根管貼薬剤としてNAC を使用した. 併せて, RAW264.7 細胞に破骨細胞分化誘導因子(receptor activator of nuclear factor kappa-B ligand; RANKL)とNAC とを作用させ,破骨細胞分化に対するNAC の効果を検討した. |
