HUSCAP logo Hokkaido Univ. logo

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers >
Theses >
博士 (保健科学) >

超高線量率放射線照射後の細胞生存率予測モデル

Files in This Item:
Yuta_Shiraishi.pdf7.78 MBPDFView/Open
Please use this identifier to cite or link to this item:https://doi.org/10.14943/doctoral.k15824
Related Items in HUSCAP:

Title: 超高線量率放射線照射後の細胞生存率予測モデル
Authors: 白石, 祐太 Browse this author
Issue Date: 25-Mar-2024
Publisher: Hokkaido University
Abstract: 医療において放射線は診断、治療に有用であり、今日では臨床の現場で欠かせない役割を担っている。放射線治療の主な目的は腫瘍を根治することであり、高い線量が病変部へ照射されるため、周囲の正常な器官・組織にも有害な影響が誘導されることがある。したがって、放射線治療では放射線被ばくに伴う有害事象を抑制しつつ、腫瘍細胞に対して十分な殺傷効果を得ることが重要である。この目的の達成に向けて、近年、≥ 40 Gy/sの超高線量率 (ultrahigh dose rate: UHDR) を用いる FLASH 放射線治療 (FLASH-radiotherapy: FLASH-RT) が注目されている。 UHDR を用いた細胞実験は1950年代後半、動物実験は1970年代から行われてきたが、臨床への応用はなかなか進まない状況が続いた。しかし、2014 年に Favaudon らが新たに「FLASH」を名称に用いた論文を発表すると状況は一転し、放射線治療における有用性と実現可能性が広く認められ、現在に至るまで種々の研究がなされてきた。FLASH照射の重要な特徴の1つは、正常組織に適用した際に、従来 (conventional: CONV) の線量率と比較し、組織機能が温存され、また有害事象の発生が抑制されることである。もう1つは腫瘍組織でCONV線量率と同等の制御効果が維持されることである。そのような背景から、将来的にFLASH-RT が一般的な治療法として普及することを見越し、治療計画装置に必要な生物効果予測モデルの開発が必要と考えられるが、モデル開発に必要なFLASH効果が誘導されるメカニズムは依然として明らかになっていない。 放射線の生物学的効果(細胞生存率)は放射線照射後に誘発される DNA 二本鎖切断 (double-strand break: DSB) の数が重要である。そこで、本研究では UHDR 照射後と CONV照射後の初期DSB発生数の違いを基に、UHDR照射後ならびにCONV照射後の細胞生存率を予測可能な数学モデルintegrated microdosimetric-kinetic (IMK) model for UHDR-irradiationの開発を行った。この開発で我々は照射後のDNA損傷数の時間変化から細胞死を予測可能なintegrated microdosimetric-kinetic (IMK) モデルを使用した。一般に、放射線による DNA 損傷の多くは修復されるが、その一部は修復されないか、あるいは誤修復により死に至る。これら生物過程を考慮するために、IMK モデルでは修復可能な損傷を potentially lethal lesion (PLL)、修復困難な致死的な損傷をlethal lesion (LL) と定義し、DSBの動態が考慮されている。従来、PLLの初期発生数は線量率に依存しないと仮定してきたが、UHDR照射後では、活性種の酸化作用 (間接作用) の違いにより、CONV照射と比較し初期のDSB発生数が変化すると報告されている。これは、UHDR 照射では多数の活性種が時空間的に近接した状態で生成されるため、活性種が互いに打ち消され、間接作用によるDNA損傷が抑制されることに起因すると考えられている。そこで本研究では線量率の増加に伴いDSB発生効率が低下する新たなモデリングを行い、既存のIMKモデルに組み込むことにより、UHDR照射後の細胞生存率を予測可能な新たなIMK model for UHDR-irradiationの開発を試みた。 IMK model for UHDR-irradiation では、間接作用とDSB生成率の関係性が数式で表現されている。本研究ではDSBに関する文献が非常に少ないため、細胞への照射線量や細胞の種類などの実験条件を考慮せず、DSBデータを取得した。取得データから求めたCONV照射に対するUHDR照射後の相対DSB数に対しMarkov chain Monte Carlo (MCMC) シミュレーションを適用し、モデル内の線量率とDSB数の関係を表現した。また、MCMCシミュレーションを用いて、CONV 照射後の細胞生存率データから生存率推定に必要な細胞特有のモデルパラメータを決定し、IMK model for UHDR-irradiationを使用することで、UHDRに相当する任意の線量率に対する細胞生存率の予測を試みた。 開発した IMK model for UHDR-irradiation を使用することで、様々な種類の細胞(HeLa, MRC-5, MDA-MB-231, LU-HMSCC4, MCF7, WiDr, DU145(有酸素/低酸素条件))の生存率曲線の再現に成功した( 𝑅2 ≥ 0.7)。本モデルで得られる細胞生存率曲線を表す数式は、放射線治療において利用される従来のlinear-quadratic (LQ) モデルの数式と同様の形で表現することができるため、放射線治療における生物学的効果の表現や分割照射の評価に用いられる生物学的効果比 (relative biological effectiveness: RBE) と生物学的等価線量 (biologically effective dose: BED) の導出にも成功した。RBE については、本モデルから得られる値と実測値から従来の LQ モデルを用いて得られる値を比較し、よく一致することが示された。BED については、不確かさが大きい一方でUHDRの平均値がCONV線量率の平均値よりも小さくなることが示された。 本モデルはUHDR照射後の細胞生存率を精度よく再現したが制約がある。まず先に述べたように、使用できるDSB数に関するデータが不足していたため、細かい実験条件を考慮できない点が挙げられる。正常組織と腫瘍組織では FLASH 照射に対する反応が異なるが、現段階において本モデルでは考慮できていない。今後、実験データが蓄積されることで、本モデルをいずれのタイプの細胞にも適用することができるようになると期待される。また、本研究で用いた複数の腫瘍細胞ではUHDR照射後にCONV照射後と比較し細胞生存率が増加するが、in vivo 実験においては抗腫瘍効果が UHDR と CONV 線量率で変化せず矛盾する。本モデルは細胞実験のデータに対するモデルであるため、細胞実験の細胞生存率と組織の反応を関連付けることはできてきない。 本研究により、UHDR照射とCONV照射におけるDSB数の違いを基に、CONV照射後の細胞生存率データからUHDR照射後の細胞生存率を予測可能な数学モデルの開発に成功した。さらに、モデル内で定義した、CONV線量率に対するUHDRにおける相対DSB数を表すモデルパラメータは、実験条件のばらつきやDSB数の不確かさが大きい一方で、フィッティングにより線量率の増大に伴い減少することが示された。したがって本モデルにより、UHDR照射後の細胞生存率の増加にDSB数の減少が関わることが示唆された。本成果は、UHDRを使用するFLASH-RT の生物効果の評価やメカニズム解明に貢献できる。また、将来的な治療計画用アルゴリズムの開発に応用されることも期待できる。
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 甲第15824号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 保健科学
Examination Committee Members: (主査) 教授 神島 保, 准教授 福永 久典, 教授 石川 正純 (医理工学院)
Degree Affiliation: 保健科学院(保健科学専攻)
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/91905
Appears in Collections:課程博士 (Doctorate by way of Advanced Course) > 保健科学院(Graduate School of Health Sciences)
学位論文 (Theses) > 博士 (保健科学)

Export metadata:

OAI-PMH ( junii2 , jpcoar_1.0 )

MathJax is now OFF:


 

 - Hokkaido University