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X線照射後の細胞遊走と細胞周期依存性

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Please use this identifier to cite or link to this item:https://doi.org/10.14943/doctoral.k15825
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Title: X線照射後の細胞遊走と細胞周期依存性
Authors: 清野, 良輔 Browse this author
Issue Date: 25-Mar-2024
Publisher: Hokkaido University
Abstract: 今日の医療では診断・治療において放射線の利用が不可欠である。世界各国においてがんは主要な死亡原因の一つであり、放射線治療によるがん患者転帰の改善が喫緊の課題となっている。がんによって死亡に至る過程に着目すると、原発部位から腫瘍細胞が他部位へ血行性やリンパ行性に移動し、増殖する転移を防げるかどうかが生死を分ける一つの基準になっている。また、原発巣から周囲の組織や臓器に腫瘍細胞が広がっていく浸潤も増悪に寄与している。このようながん浸潤・増悪には、細胞がもとの場所から別の場所へ移動する「細胞遊走」が密接に関与している。 電離放射線が生体へ入射すると、生体組織へのエネルギー付与によりDNAが損傷され、細胞死、遺伝子変異、染色体異常などが誘発される。従来研究から、被ばく時の細胞周期位相に応じて DNA 損傷に対する修復機構が異なり、修復効率に差異がみられることが明らかとなっている。すなわち、放射線照射時の細胞周期位相により、細胞の放射線に対する感受性が異なることは広く知られている。一方、がんの病勢進行を制御するために重要な浸潤・転移の初期段階にある細胞遊走に対する放射線影響や、その細胞周期との関連についての知見の蓄積は依然として乏しい。 そこで本研究では、放射線照射後の細胞遊走とその細胞周期依存性を明らかにすることを目的とした。本論文で、細胞周期同調法の一つである分裂期採集法の検証を前半に、X 線照射後の細胞遊走と細胞周期依存性に関する検討を後半に述べる。 細胞周期を同調させ、細胞周期に依存する現象を解析する手法は長年にわたって開発されてきた。それらの手法のうち、動物細胞の有糸分裂に伴い基質への接着が弱くなる性質を巧みに利用した「分裂期採集法」は、細胞代謝を阻害する試薬を用いないので生理的負荷が最小限で済むことが利点の一つである。また、この手法は複雑な工程を必要としないため、その再現が比較的容易である点も長所といえる。 本研究では、まずこの分裂期採集法による細胞周期同調の程度を検証するため、蛍光ユビキチン化ベースの細胞周期指標(FUCCI)を導入したヒト子宮頸がん細胞株HeLa細胞(HeLaFUCCI 細胞)を用いて、分裂期細胞回収後の培養における細胞周期同調性を検討した。また、フローサイトメトリーで細胞内 DNA 含量を経時的に測定することで、各細胞周期位相の同調性について別角度から検討した。 その結果、分裂期採集法後の細胞周期は少なくとも24時間後までは細胞周期の同調が維持されていること、とくに細胞周期の1周する時間(最初の倍加時間)までは高度な同調性が維持されることが明らかになった。さらに、分裂期細胞回収、播種後6-8時間でG1期が、約12 時間でS期が、約14-16時間でG2期が優勢になることが示された。また、コロニー形成法による細胞周期依存的放射線感受性の定量の結果は従来の感受性に関する報告を支持するものであった。 次に、分裂期採集法にて細胞周期を同調させた細胞にX線を照射し、タイムラプス撮影によりその後の細胞移動を経時的に測定した。明視野画像における細胞を追跡するため、細胞セグメンテーションのために深層学習ベースのアルゴリズムであるCellpose を用いて細胞の輪郭を同定し、Fiji ImageJのTrackMate プラグインを用いて細胞ひとつひとつの移動速度と移動方向を網羅的に解析した。 その結果、照射時G1期同調細胞の移動速度は線量依存的に減少傾向を示したが、G2期同調細胞では速度が増加する傾向にあった。一方、細胞移動は、X 線の照射の有無および線量によらずいずれも二次元ランダムウォークのパターンを示した。したがって、HeLa-FUCCI細胞のような細胞遊走の変化を示すがんの場合、細胞周期をG1期またはS期で停止させる抗がん剤が細胞の浸潤や転移を阻害する上で有効である可能性が示唆された。また、細胞のセグメンテーションと追跡アルゴリズムを用いることで、照射後の細胞周期特異的な移動の放射線生物学的評価が可能であることが示された。今後、このようなアプローチによる細胞周期標的抗がん剤を用いた放射線治療の改善が期待される。
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 甲第15825号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 保健科学
Examination Committee Members: (主査) 教授 神島 保, 准教授 福永 久典, 教授 石川 正純 (医理工学院)
Degree Affiliation: 保健科学院(保健科学専攻)
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/91933
Appears in Collections:課程博士 (Doctorate by way of Advanced Course) > 保健科学院(Graduate School of Health Sciences)
学位論文 (Theses) > 博士 (保健科学)

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