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隔離型保全モデル再考: オオバタンの二次林利用に関する調査から

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Please use this identifier to cite or link to this item:http://hdl.handle.net/2115/77236

Title: 隔離型保全モデル再考: オオバタンの二次林利用に関する調査から
Authors: 笹岡, 正俊 Browse this author →KAKEN DB
Issue Date: Mar-2016
Publisher: 京都大学地域研究統合情報センター
Journal Title: CIAS discussion paper No.59 : 森をめぐるコンソナンスとディソナンス --熱帯森林帯地域社会の比較研究 = Consonances and Dissonances over Forests --A Comparative Study of Local Communities in Tropical Rain Forest Regions
Volume: 59
Start Page: 7
End Page: 14
Abstract:  歴史人類学者のK. ラティニスは,インドネシア東部マルク諸島を含む,ウォーレシアからニアオセアニアにいたる地域のサブシステンス経済が,アーボリアル(arboreal)な資源の利活用を通じて栄養的,経済的な必要の大部分を満たす点に特徴があるとし,これを「樹木基盤型経済(arboreal-based economy)」(Latinis 2000)と呼んだ。マルク諸島の中心に位置するセラム島の暮らしも,アーボリアルな資源の利用に支えられている部分が大きい。  筆者がこれまで調査を行ってきた,島中央部,マヌセラ山脈とコビポト山塊の間にひろがるマヌセラ盆地では,有用樹木の植栽・保育・管理といった営為──本稿ではこれをアーボリカルチャー(arboriculture)と表現する──を通じて,住民は継続的に土地・植生に手を加え,人間にとって有用性の高い二次林(Human-Modified Forests:HMFs)をさまざまな方法で作り出してきた。村を取り巻く豊かな熱帯林は,よそ者の目には,一見すると,人為的影響をあまり受けていない原生的な森にみえるが,実際には,多様な森林利用の歴史が随所に刻印された場である。  ところで,セラム島中央部には,島の陸域面積に約一割を占めるマヌセラ国立公園(18万9,000ヘクタール)が設置されている。1989年に設定されたこの公園の主要な管理目的のひとつは,セラム島固有のオウム,オオバタン(Cacatua moluccensis)の生息地保護である。尚,オオバタンは,ペットトレードのための違法な捕獲や生息地の破壊などにより個体数が減少しているとみられており,IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで行われている保全状況評価では,「絶滅のおそれのある種」のカテゴリのひとつである「絶滅危急種(VU)」とされている。  マヌセラ国立公園では,基本的に,人為をなるべく排除することで自然をまもろうとする隔離型の管理が行われている。筆者が住み込みで調査をしてきたアマニオホ村(仮名,以下A村)では,樹脂を採るために作られたダマール採取林や,果樹が保育されているフォレストガーデンがスポット的に造成されているが,その一部は国立公園の中に存在している。公園管理事務所は黙認しているものの,法に照らし合わせると,国立公園内の野生樹木の伐採は禁じられており,これらのHMFsの造成は違法である。  しかし,住民と話をしていると,オオバタンは奥山の人の影響をあまり受けていない森だけではなく,ダマール採取林やフォレストガーデンにもよく出没し,そこを生活の場にしているという。マヌセラ国立公園の管理目的はオオバタンの生息地保護だけではないが,それは公園管理の最も重要な課題のひとつであることは間違いなく,オオバタンにとって良好な生息地をまもりながら,地域住民の生き方をも否定しない管理のあり方が今後の公園管理において目指すべき方向であろう。もしも住民が語るようにダマール採取林やフォレストガーデンがオオバタンの生息地の一部をなしている場合,現行の隔離型の保全モデルは望ましいものとはいえないかもしれない。  以上をふまえて,本稿では,インドネシア東部マルク諸島のフラッグシップ種(高い保全的価値が認められた種)であるオオバタンにとって,地域住民がアーボリカルチャーを通じて維持創出してきたHMFsがどのような意味をもっているのかを明らかにすることを課題とする。その上で,人間が資源・土地利用を行ってきた地域と生きものの生息域の歴史的な重なりを前提とした上で,その重なりのなかで生みだされ維持されてきた人と人以外の生きものとの「望ましい」相互関係をまもることを重視する新たな保全モデルの必要性について指摘する。
Type: article
URI: http://hdl.handle.net/2115/77236
Appears in Collections:文学院・文学研究院 (Graduate School of Humanities and Human Sciences / Faculty of Humanities and Human Sciences) > 雑誌発表論文等 (Peer-reviewed Journal Articles, etc)

Submitter: 笹岡 正俊

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