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低気圧に伴う降雪に起因する表層雪崩発生危険度の予測手法の開発

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Please use this identifier to cite or link to this item:https://doi.org/10.14943/doctoral.r7186
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Title: 低気圧に伴う降雪に起因する表層雪崩発生危険度の予測手法の開発
Other Titles: Development of a potential estimation algorithm for surface avalanches caused by snowfall with extratropical cyclones
Authors: 中村, 一樹 Browse this author
Issue Date: 25-Dec-2023
Publisher: Hokkaido University
Abstract: 積雪内に形成された弱層が、その上に堆積した積雪(上載積雪)の重みにより破壊され、面発生表層雪崩が起こる。この雪崩は、大規模になりやすく、バックカントリースキーヤーや、登山者が巻き込まれる事故や道路通行止め等の被害も多い。面発生表層雪崩の原因である弱層となる主な雪質は、霜系のしもざらめ雪と表面霜、湿雪系の濡れざらめ雪、降雪系のあられと雲粒なし降雪結晶の5種類に分類されている。過去に山岳で発生した面発生表層雪崩事例の調査結果によると、スイスやカナダでは霜系の弱層の割合が80%を超え、降雪系の弱層の割合が20%に満たない。一方、日本では、霜系の弱層の割合が58%、降雪系の雲粒なし降雪結晶の弱層の割合が42%であり、スイスやカナダよりも降雪系の弱層の割合が高いことが特徴である。雲粒なし降雪結晶が弱層となる表層雪崩の発生危険性を予測するためには、降雪粒子の形状に関わる降雪時の気象条件の特徴の把握が重要となる。これまで、いくつかの雲粒なし降雪結晶が弱層を形成した表層雪崩事例が調査され、雲粒なし降雪結晶の弱層形成に低気圧の層状雲が関係していることが報告されていたが、気象条件が定量的に検討されたことはなかった。ヨーロッパや北米を中心に日本でも、霜系の弱層に起因する面発生表層雪崩を対象にした雪崩発生危険度予測の試みが雪質変質モデルを用いて行われている。しかし、現時点では、降雪粒子の形状が積雪変質モデルに取り込まれておらず、雪粒子の形状毎の雪質変質過程の違いを雪質変質モデルで表現することができないため、雪質変質モデルを用いて雲粒なし降雪結晶が弱層になる表層雪崩を予測することは困難である。なだれ注意報を始めとする既存の雪崩情報は、低気圧に伴う降雪に起因する表層雪崩発生メカニズムの考慮が不十分である。また、低気圧に伴う降雪は、広範囲に降ることから、危険なエリアが比較的広範囲に広がっていることが予想される。したがって、雪崩発生危険度を面的に認識するには、低気圧に伴う降雪に起因する表層雪崩発生危険度を地図上に可視化した情報が必要となる。しかし、国内で提供されている雪崩発生危険度の現況情報や、研究として試験的に算定されている予測情報は、対象山域が限定されており、広い範囲の雪崩危険度度の分布を認識することができなかった。雪崩発生危険度の可視化情報を必要とするユーザーとして、入山前に情報を得て山岳を選択し、実際に足を踏み入れ、自らの判断で行動する登山者、バックカントリースキーヤーのほか、スキー場管理者、道路管理者などのインフラ管理者などが想定される。これらのユーザーが活用可能な形で、雪崩発生危険度を地図上に面的に可視化することが課題となる。このような背景と課題から、本研究の目的を、低気圧に伴う降雪に起因する表層雪崩発生の条件を定量的に明らかにすることと、定量的に明らかになった雪崩発生条件を用いた低気圧に伴う降雪に起因する表層雪崩発生危険度の予測アルゴリズムの開発と生成される雪崩発生危険度の可視化情報の活用方法の検討とした。低気圧に伴う降雪に起因して発生した過去の8つの表層雪崩事例を対象として、発生した表層雪崩の特徴を気圧配置等の気象条件から検討し、2つのパターンに分類した。低気圧進行方向前面の層状雲から降った雲粒なし結晶(例えば板状結晶)で弱層が形成され、同じ低気圧がさらに接近した際の降雪が上載積雪となり、低気圧通過中に表層雪崩が生じる場合をパターンAとした。パターンAと同様に低気圧進行方向前面の層状雲から降った雲粒なし結晶で弱層が形成され、同じ低気圧が接近して降った雪に加え、低気圧の通過後の冬型の気圧配置に伴う降雪が上載積雪となって表層雪崩が生じる場合をパターンBとした。パターン毎に雪崩の特徴を抽出し、地形データや気象データを用いて分析を行うことで、①地形データとして傾斜角30度以上の斜面を持っていること、さらに、気象庁メソモデル(MSM)の出力を用いて、②雨雪判別の閾値2℃以下であること、③降り始めが低気圧に伴う降雪であること(下層風が東寄りもしくは500hPaの相対湿度が80%以上)、④低気圧および冬型の気圧配置による、降雪開始からの積算降雪量が20mm以上であることにより、判定するアルゴリズムを検討した。構築したアルゴリズムに、MSMの気象データを入力することで、このアルゴリズムによる表層雪崩発生危険度は、これまでの表層雪崩の発生事例を予測できることが確かめられた。開発したアルゴリズムを用いて、5km格子毎に、低気圧に伴う降雪による表層雪崩発生危険度を1時間毎に39時間先まで予測計算し、3時間毎に更新する実証試験用のWeb閲覧システムを構築した。山岳ガイド等の山岳関係者26名に情報を提供する実証試験を行った結果、情報は有用であり、予測時間の長さ、更新頻度、情報の細かさ、危険度の表現については、概ね実証試験の仕様で満足していることが示された。また、予測情報の位置付けの明確化が必要であることも分かった。広域に対する大まかな情報からピンポイントの具体的な情報提供の仕組みとともに、ユーザー側の活用方法に関する発信側と受信側の相互理解を深めていく必要等が明らかになった。降雪粒子の形状の情報と堆積後の雪粒子の形状毎の雪質変質過程をアルゴリズムに組み込み、降雪から積雪後の変質を連動して再現できるモデルを開発することが、低気圧に伴う降雪に起因する表層雪崩発生危険度の予測を実現する上での最終的な課題となる。本研究では、その第一歩として、積雪安定度の見積もりや積雪の段階的な安定化等の詳細な積雪変質プロセスは考慮されていないが、過去の低気圧に伴う降雪に起因する表層雪崩発生の事例を対象に統計的な分析も交えて発生条件について検討することで、予測アルゴリズムを構築した。その結果、雪崩のソフト対策の喫緊の課題である、低気圧に伴う降雪に起因する表層雪崩発生危険度の可視化を実現することができた。入力値となる気象予測モデルの数値予報の誤差(不確実性)は、数値予報モデルが完全でないことや観測誤差の存在などから不可避なものである。また、当然、先の時間の予測値の方が不確実性は大きくなる。気象要素の入力値として、不確実性を考慮したアンサンブル予測値を用いて降雪量の予測の幅を確認し、情報の閾値を越えるタイミングについて幅を持った表示と、それを用いた意思決定方法を検討することも今後の課題の一つである。
Conffering University: 北海道大学
Degree Report Number: 乙第7186号
Degree Level: 博士
Degree Discipline: 環境科学
Examination Committee Members: (主査) 教授 山中 康裕, 教授 渡邉 悌二, 准教授 佐藤 友徳, 教授 尾関 俊浩 (北海道教育大学札幌校)
Degree Affiliation: 環境科学院
Type: theses (doctoral)
URI: http://hdl.handle.net/2115/91173
Appears in Collections:論文博士 (Doctorate by way of Dissertation) > 環境科学院(Graduate School of Environmental Science)
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